数日間、田舎町で過ごした明日香は、毎晩のように天文台を訪れ、山田さんや光と一緒に星空を眺めた。毎晩違う表情を見せる夜空は、まるで彼女の心の鏡のように感じられた。光の写真に収められた星の瞬きや、山田さんの語る星座の物語は、明日香の心に優しく響き、日々の中で忘れていた感覚を取り戻していった。
ある晩、明日香は天文台で一人静かに星空を見上げていた。山田さんの言葉がふと思い出される。「満天の幸福は、星の数だけあるんだよ。」星々は彼女に語りかけるようで、どこか遠い記憶が呼び起こされる。幼い頃に両親と見た星空や、夢中で星座を探した夏の夜が蘇ってきた。
「幸福って、こういうことなんだね…」
心の中で呟いたその瞬間、涙が頬を伝った。忙しさに追われて忘れていた、何でもない日常の一瞬一瞬が、実はかけがえのないものだったことに気づいたのだ。
明日香は都会に戻る日が近づいていることを感じながらも、心に新たな光を見つけていた。最後の夜、山田さんと光に別れを告げると、光は笑顔で言った。「また、星を見に戻ってきたらいいさ。満天の幸福は、ここにいつでもあるから。」