都会に戻った明日香の生活は、以前とはどこか違っていた。仕事の忙しさは変わらなかったが、彼女の心には、田舎町で見た星空と、山田さんと光との出会いがしっかりと刻まれていた。
ある日の帰り道、明日香は夜空を見上げた。高層ビルの明かりにかき消されて、星はほとんど見えなかったが、それでもほんの少しの星が輝いているのを見つけた。その瞬間、心の中に広がる満天の幸福を感じた。
「大切なのは、どこにいるかじゃなくて、どう感じるかなんだ。」
職場の休憩時間にも、明日香はふとした瞬間に窓の外を見たり、昼休みに近くの公園を散歩したりするようになった。日々の中にある小さな美しさや、かすかな星のような幸福を感じ取る余裕が生まれていた。そんな変化に気づいた同僚たちは「最近、なんだか雰囲気が変わったね」と声をかけるようになったが、明日香はただ微笑んで、「そうかもね」とだけ答えた。
そして、週末になると、明日香は光から送られてくる写真を見るのが楽しみになっていた。星空や田舎の風景が映し出された写真には、光のメッセージが添えられている。「今夜も星が綺麗だよ。いつでも戻っておいで。」
日常の中にある小さな幸せ、ふとした瞬間に心が満たされる感覚。それが明日香にとっての「満天の幸福」だった。都会のど真ん中でも、空を見上げるだけでその感覚は蘇る。彼女はこれからも、心の中の星空を忘れることはないだろう。
どんなに忙しくても、幸福はいつでも自分のそばにある。それに気づくだけで、世界は満天の星空のように輝き出すのだから。